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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)33号 判決 1979年4月17日

兵庫県尼崎市武庫之荘三丁目四番一四号

控訴人

三国産業株式会社

右代表者代表取締役

佐竹健三

右訴訟代理人弁護士

坂本壽郎

大阪府池田市城南二丁目一番八号

被控訴人

豊能税務署長

近藤弘

右指定代理人

上原健嗣

小林修爾

高橋正行

竹田二郎

吉田真明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(控訴の趣旨)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が三国鋼業株式会社の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度の法人税につき昭和四九年二月二八日同会社に対してした更正及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(控訴の趣旨に対する答弁)

主文同旨。

(当事者の主張及び証拠関係)

次に付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目表一一行目の「買換資金」を「買換資産」と改める。)。

一  控訴人の主張

1  三国鋼業株式会社(以下「三国鋼業」という。)は、昭和四七年四月に買換資産の建設工事に着工することはできなかった。すなわち、本件買換資産の建設地の入口付近は昭和四九年二月までは道路幅員が三・六メートルしかなく、この幅員でも建設資材運搬のトラックの通行は必ずしも不可能ではないが、舗装もされていないので、雨天等の場合には路肩が崩れたり等して危険な状態が発生するおそれがあったのである。三国鋼業が昭和四八年一月初めに建設工事に着工したのは、同年三月末日が買換資産の取得指定期間の満了日であったため、右危険を冒してあえて着工に踏み切ったからである。

2  仮に昭和四七年四月当時に建設工事の着工が可能であったとしても、三国鋼業としては指定期間の昭和四八年三月末日までに右工事を完成すればよいのであるから、通常の場合の工事完成期間を見込んで昭和四八年一月上旬に着工すれば十分であり、それよりはやく着工したり工事を完成させる必要は全くなかった。三国鋼業は昭和四八年一月ごろからのセメント不足の異常事態を予測することは不可能であったのであるから、昭和四七年中に着工又は完成しなかったことについて、三国鋼業に責められるべき点は全くない。

3  三国鋼業は前記指定期間の認定を受けたとき、当時の被控訴人署長から、買換資産を事業の用に供する期間の遵守が最も重要である旨を特に説示されたところ、セメント不足という不可抗力の原因で指定期間を遅延はしたが、多大の障害を克服して早期に買換資産を事業の用に供したものである。

4  よって、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法(以下「法」という。)第六五条の五第二項を適用しないのは、正義公平に反し、課税権の濫用である。

二  被控訴人の主張

控訴人の右主張は争う。

三  証拠関係

控訴人は当審における控訴人代表者尋問の結果を援用した。

理由

一  当裁判所は、当審における控訴人代表者尋問の結果を参酌しても、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほかは原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

1  控訴人は、道路事情のため買換資産の建設着工に支障があった旨主張するが、道路の拡幅工事前でも道路幅員は三・六メートルあり建築用資材運搬のトラックの通行が可能であったことは控訴人の自認するところであって、成立に争いのない乙第一六号証の一によれば道路拡幅に着手したのが昭和四七年三月で、その完成は昭和四九年五月初めであったことが認められるが、右拡幅完成をまたなくても買換資産の建設着工が可能であったものと認められる。

2  また、買換資産の取得指定期間内であれば、その建設着工の時期をいつに定めるかは控訴人の自由であるが、その反面、着工が遅れて右指定期間内に建設が完成しないことによる不利益も控訴人において負担すべきである。このことは、法第六五条の五第二項の課税の特例が指定期間内に買換資産を取得した場合に適用され、その例外規定が存在しないことから見ても当然のことである。

3  さらに、控訴人が取得指定期間の経過後一年以内である昭和四八年一二月に買換資産を事業の用に供したことは当事者間に争いがないが、指定期間内に買換資産の取得をしなくても右期間経過後一年以内に事業の用に供すればなお前記法条の特例の適用を認める旨の例外規定は存しない。

4  以上のとおりであるから、被控訴人が本件買換資産につき法第六五条の五第二項の適用を認めなかったことは相当であり、他に右適用を認めないことが正義公平に反し課税権の濫用に当るものと認めるべき資料はない。

二  そうすると、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 中川敏男 裁判官 大石一宣 裁判官高木積夫は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 安藤覚)

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